暴力という出し物。あるいは、残酷な見世物の代金。

たまたま、というか、偶然というか、今日、昨日、「ゆきゆきて神軍」と録画しておいた「ランボー」を観る。この二つを続けて観たのは偶然だったが、幸運だった。日本とアメリカ、太平洋戦争とベトナム戦争と差異はありながらも、二つの映画ままるで双子のように同じ映画だったからだ。毎回、思うのだけれど、個人個人が生きてきた過去と現在のコンテクストによって、言葉も行為も意味も全てが変わってしまうということの恐ろしさを感じる。戦時下の非日常を、戦後の日常において生きなければいけない人々。忘却から見放された人々。確か、ニーチェは言った。「忘れることは人間の最も偉大な能力だ」と。だとすれば、最も非人間的な能力とは忘れないこと、忘れることができないことにあるのではないだろうか?

 記憶と忘却。その違いから来る、狂気のような正義と、正義のような狂気。一見、狂人のように思える奥崎の行為や言葉も、ランボーの破壊的な行動も、ほとんど語ることのできない、語ることだけでは済ますことの絶対にできない戦争の傷跡からの回復として、ただ、その傷に向かってかろうじて想像することだけが、彼らの行為を理解するというか、彼らが生み出す暴力と破壊のカタルシスとして回復を感覚させてくれるのだ。傷を思い出すために、もしくは、傷を伝えるために、もう一度、いや、何度でも、傷つけること。暴力という行為だけが可能にする可能性がここにある。そして、一見、突然のめちゃくちゃな暴力に晒される善良な市民のような人々こそが戦場では狂人であったことを思い知らせてくれる。もしくは、「オレの愛する街の平穏を守る」という保安官の街への愛が。その延長線上に、日々、普通に生活している自分さえ、その原罪を犯しつづけているような気がする。それは突き詰めれば、東亜細亜反日武装戦線が唱えたお題目に行き着くことになる。もしくは、自分の生命が危険に晒されている以上、他人を助ける義務は無いという、あの厄災の元での厳格なルールに。家族や職場を投げ捨ててまで、他者を救う必要は無い。だからといって、命をかけてまで今生きている人々を守ろうとした死者たちの思いはどうなるというのだろうか?サルトルは言った。「人は死ぬともう他者の中でしか生きられなくなる」と。だとすれば、死者とは死者の他者である我々に他ならないのかもしれない。

 映画の中で奥崎はこう言う。「お前は人を殺して食っておいて、何が商売の邪魔だ!俺は仕事でもないのにここに来ているんだ!」しかし、彼は他の場面でこうも言う。「私は天皇にパチンコを撃った、だから店の売上が3倍になったんだ!」と、おそらく、カンパというか彼の正しさを理解する人々がそうやって彼を助けたのだ。ある意味で彼が行っている行為で収入があるのならば、それは仕事だし、特殊な職業だとも言える。ちょうどつげ義春が、あれだけ無益で、怠惰で、どうしようも役に立たない人々のマンガを書くことが、実はいい商売になっていて、それはそこら辺に落ちている石を売っても生活はできないが、その話をマンガにすれば売れるということなのだ。スタローンだってランボーで大儲けして、今回の放映はその宣伝に他ならない。狂気はうまく売り出せば大儲けできるのだ。これはちょっと困ったことなのだが。なんせ、そんな才能があるのはほんのわずかの、一握りの人々であって、誰もが狂気の商売人になれるわけではないからだ。

 死者を売り物にすること、死者で食っていくこと。人を食った話で食っていくこと。この、残酷な見世物への代金は、高いのか、安いのか、僕にはわからない。だけど、僕はもう、それを払って見世物を見てしまったのだ。そのお金はいったいどこへ消えるというのだろう?

 




PS   「ゆきゆきて神軍」に出てきた人々、それも意図せず巻き込まれてしまったような、それでも、責任ということで語らずにはいられなかった人々に、あの映画の報酬が払われたのだろうか?そしてスタローンがベトナム帰還兵達にあの映画の報酬を何らかの形で分配することはあったのだろうか?それがちょっと気になる。

あと、写真は関係ありそうでないようでありそうな渡辺文樹の新作「天皇伝説」上映が5月27日でかなり問題になりそう。うーん。お金を払って見に行くべきかどうか・・・・

渡辺文樹
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%A1%E8%BE%BA%E6%96%87%E6%A8%B9





と、思ったら監督逮捕で上映延期だって!!


http://d.hatena.ne.jp/shimizu4310/20080521



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