みのるモロッコ 前編

モロッコいんげん.JPG

高く伸びるためには、根は野蛮の底まで沈んでいなければならない。 きだみのる

4月にベジ食堂でもらったモロッコインゲンの種があっという間にヤヴァン・ガーデンの天井を突き抜けるまで成長した。部屋から見ると、天井で見切れているので、「ジャックと豆の木」のように本当に天まで延びているような錯覚に陥る。

6月下旬には大きな実がみのったので、軽く茹でた後、ごま油で炒めて食べた。美味しかった。モロッコインゲンが成長し続けた3ヶ月ほど、ボクの中のモロッコ熱も成長をし続け、その間、ベランダで収穫したスペアミントで作った酔うほどに甘いモロッコスタイルのミントティーを飲みながら、書物の中を旅し続けていた。音楽はもちろん、ジャジューカとグナワだ。

ポール・ボウルズの著作や、彼の翻訳者でもある四方田犬彦の『モロッコ流謫』に親しんでいたから、どうしてもボクのモロッコはボウルズ中心になってしまう。10年ほど前、就職活動を放棄してやってきたモロッコの港町タンジールで「ボウルズの家まで案内してやる」といった男に強盗にあって以来、モロッコ=タンジール=ボウルズという連想の癖が定着してしまった。今回の旅もそこから始めよう。

ボウルズ伝.jpg

まずは、ロベール・ブリアットの『ポール・ボウルズ伝』。実は、ボウルズの書く小説よりも、ボウルズ自身に興味があるので楽しく読めた。映画『ポール・ボウルズの告白/シェルタリング・スカイを書いた男』を観ながら読むと、登場人物のビジュアルがわかってさらに旅のリアリティは増す。

次にこれもボウルズ中心のモロッコ本、ミシェル・グリーンの『地の果ての夢、タンジール―ボウルズと異境の文学者たち』。タンジール庵の茶人ボウルズを訪ねてくる無粋な欧米アウトローたちの面白エピソード集だ。ボウルズの人柄がよく表れているこんな話とか。ちなみにマジューンとはジャム状の強烈な大麻である。

「ボウルズとヤクービは人々にマジューンを与えて怯え上がらせることで悪名高かった」と、ウィリアム・バロウズは語る。彼らの標的となった者が、そのために悪い時を過ごしている時、ボウルズは必ず、『何てことだ、時にそういった状態に陥って、そのまま正気に返らないことがあるんですよ。・・・・・ほんとうに、マジューンなんか差し上げて申し訳ありませんでした。とてもひどい反応を起こしていますね』といったようなことをいうんだ。まったく彼は恐怖の発作を起こしている人にはすばらしい救い主だった」p159

「ポールは人をからかうのが大好きでした」と彼はいう。「彼の家に行って麻薬をたっぷりやった後、彼は死にたくなるほどぞっとするような音楽をかけるんです。だから少しでも偏執狂の気があるとすぐにばれました。でも最後にはファッツ・ワーラーをかけて安心させてくれるんです。彼はまるでぼくたちを顕微鏡で観察している科学者のようでした」p349

ボウルズがタンジールに茶室を設けたのが1947年。その8年前の1939年にモロッコを旅した日本人がいた。きだみのるだ。マルセル・モース教室の優等生で『贈与論』(当時は『太平洋民族の原始経済』というタイトル)の翻訳者であり、林達夫との共同訳で『ファーブル昆虫記』も手がけている。ボウルズときだに共通する姿勢が「観察」である。ボクがベランダの昆虫観察に熱中してたのはきっと彼らの影響だろう。

きだは本名の山田吉彦名義で1943年に初の自著『モロッコ紀行』を出版。この本は今では、幻の書、謎の書、禁じられた書とされていることを知る。

(続く)


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  • By harpobucho / Jul 30, 2009 10:49 am

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