引越しの準備

これは東高円寺で書く最後の文章。寝て起きたらお引越しだ。

10年くらい前の話。独り暮らしの横浜生活から実家の埼玉に帰らなきゃいけない憂鬱な夜、徹夜でダンボールに荷物を詰めながら、半泣きで聴いたのがこの曲。今もこんな気分なのか?

夜が明けたら・・・浅川マキ


いや、ちょっと違うな。

引越しの準備は祭りの準備に似ている。と書いてみたものの祭りの準備なんて学園祭レベルしかしたことないや。おそらくボクは『祭りの準備』というすんばらしいATG映画のことを念頭に置いて書いている。引越し準備の途中なのに、いま、この映画がむしょーに観たくなってきた。原田芳雄のキャラが最高なんだな。今の気分は、この猥雑なエクソダス青春ドラマを観たときの感覚に非常に近い気がする。まあ、たぶん気のせいだけど。

とにかく逃げたいのである。逃げながら武器を取りたいのである。職場環境に未曾有の生態系破壊が起こり、職場から逃げ出したいのだが、なかなかどうしてそれも難しいので、とりあえず部屋を引っ越すことからはじめてみたわけである。自分の環境をできるところからイジっていけば、そのうちに核心的な部分にも変化が訪れることを期待しての第一アクションである。

環境を変えたいという強い想いは、無意識のうちに物件探しの条件に表れた。気づくと今住んでいる部屋の条件をすべて反転させていたのだ。駅から近いので遠くに。洋室なので和室に。日当たりが悪いので良好に。ユニットバスなのでトイレ・フロ別に。一階なので二階に。こんな具合に今の環境からどこまで遠くに飛べるかを試みたわけだが、移動距離自体は、目と鼻の先。物理的な距離は関係ないのだ。

環境を変えたいという強い想いは、引越し先の建物名の拘りとしても表れた。物件探しの条件のかなりの上位にアパート/マンション名のセンスを掲げた。どんなに気にいった間取りであっても、建物名にピンとこなければ、触手はまったく動かなかった。これは大変、異常なことである。きっと精神的におかしかったに違いない!

一番最初に引越し先候補にあがったのが「メゾンドール真楽」という火葬場付近の物件。周りはほかには寺と墓場。このころは気分が非常にオチていて、この先当分いいことなさそうだから、サード・サマー・ラブ到来まで、「メメントモリ」を肝に銘じて隠居しようと考えていたのだ。バロウズのタンジールでのヘロイン生活のように。真楽(しんらく)ってのがそーとーやばい。リアル・リラックスだよ。半分棺おけの快楽。

死を身近に感じながら生きるのもインドっぽくていいな、と思ったのだが、ある物件を発見してから考えが180度変わった。その建物名を見た瞬間、「これだ!」と思った。その名も「キング・ビルディング」。名刺に「キング・ビルディング」と書いて、相手をビビらせたい一心でこの物件に決定しようとしたが、環七と青梅街道の交差点付近の騒音と空気汚染の一等地だったので断念。確かにあの環境で平然と生活できる人は精神的にキングかもしれない。

結局、「メイプルハイツ」というちょっとかわいい名前に落ち着いたわけである。ローバート・メイプルソープを連想させ、ちょっとエロチックですらある。メイプルシロップを連想させ、甘い生活への期待が高まるってもんだ。何よりもボクはカエデのハッパの形がたまらなく好きなのである。この物件へのエクソダスを決意したのは、窓を開けたときに目に入ったカエデの葉の形に目を奪われたからだ。

かえで.jpg

部室から茶室へ。
さようなら、ニコニコロード商店街。


  • HarpoBucho
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  • By harpobucho / Jun 04, 2008 1:55 am

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