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夜の会

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LINER NOTES

日本芸術文化史上最強チーム「夜の会」登場! 時は終戦直後の1948年1月。日本文化史上最初で最後、画家と作家と批評家思想家がひとつのトライブとしてたむろしたアートコレクティブが誕生した。戦後復興期に、銀座の焼け残ったビルの地下でサバトのように結成され、東中野のレストランで紅茶一杯で何時間も粘り討論し、新宿闇市でカストリをすすって口角泡を飛ばした派手な男達。彼らは、揺れ動く革命戦線と呼応しながら、アヴァンギャルド芸術戦線を模索した文化芸術愚連隊だった。

夜の会の結成から10年ほど前、バタイユはパリで宗教的な秘密結社アセファルを組織した。それはシュルレアリスト達と共同戦線を張った政治結社コントルアタック〈反撃〉が瓦解した直後だった。そこにモースの人類学をパリ大学で受講していた岡本太郎は、知己を得て参加を許され、昼は画業と聖社会学会に、夜はサンジェルマンの森で秘儀に立ち会った。1936年の冬、岡本太郎26歳。作家思想家芸術家達の知識人統一戦線から、許された者だけの秘密結社へ、いずれも短命に終わったバタイユのオーガナイズパーティでの岡本太郎の体験は、彼にオーガナイザーを志させることになる。

兵役と抑留を経た戦後すぐ岡本太郎は、花田清輝の書いた『錯乱の理論』に共鳴し「日本ではじめて語りあえる相手を見つけた」「これらの文章が戦争中に書かれたものだと知って、さらに感心した。こんな、ひろい視野をもって、強力な論理を貫く文章が、軍国日本の偏狭な、どうにもならない重みのもとでよくも展開されたものだ」「凄いやつがいるものだ。と心ひそかに敬愛の情を抱いた」と興奮する。花田は、戦中は『錯乱の理論』や『復興期の精神』を記し、戦後は「芸術運動とは芸術に付帯して運動しなくちゃならない」としてオーガナイザー狂となる『アヴァンギャルド芸術』評論家。常々「猛烈な奴に出会いたい」と思っていた花田は、岡本が自分に関心だとの噂を聞き、直接自転車で上野毛の岡本宅に訪ねてゆき邂逅、そのままチームを結成することになる。名前はアトリエに掛けられていた新作《夜》から取られ「夜の会」と命名された。《夜》は、闇夜の不気味な雷光の樹の前でナイフ片手に白いドレスの女が髑髏に向かう、アセファルの密儀を思わせる油彩画。そう「夜の会」は岡本太郎のリベンジだった。

「われわれは宣言する。芸術革命こそ、革命芸術であり、それはVICE VERSAであると。われわれアヴァンギャルド芸術家は、相互の無慈悲な対立と闘争によってクリエートする。集団の力に頼る甘い考えは毛頭ない。相互の絶対非妥協性こそわれわれの推進力となるものである」

この魅力的なツートップに、椎名鱗三、埴谷雄高、梅崎春生、野間宏、佐々木基一、安部公房、小野十三郎、中野秀人、関根弘と錚々たる「焼け跡の廃墟のここかしこから凶暴なパルチザンのごとく現れた(埴谷)」戦後文学者が集った。1948年1月19日結成後、若手文学者も集めて東中野レストランモナミで公開討論会を開く。そして拡大して若い画家も含め「アヴァンギャルド芸術研究会」という名で東大赤門前の喜福寺で続ける。針生一郎、池田龍雄、瀬木慎一など戦後芸術の前線で突っ走った俊英が集い、戦後特有の「精神の総立ち上がり」が興った。「世紀の会」も合流し、田中英光、北代省三、福島秀子、山口勝弘、桂川寛、安部真知、勅使河原宏、中田耕治、いいだもも、中村稔、森本哲郎、渡辺恒雄、柾木恭介など多士済々、噂では三島由紀夫や芥川比呂志も見かけたという。

夜の会コアメンバーは、そんな中で相当に遊びまくっていた。吉祥寺「埴谷家の舞踏会」でダンスを踊りまくり、岡本太郎はパリ仕込みのルンバを華麗に披露した。草野球チームを結成しピッチャー佐々木基一、キャッチャー岡本太郎バッテリーで出版社チームにぼろ負けしていた(花田は土手で応援)。「酒を飲まぬものは文学者ではない」と言い放つ野間宏を先頭に、新宿ハモニカ横町で密造焼酎をあおり、袴姿の五味康祐に絡まれたり、後年のゴールデン街文学者のひな形を作った。

岡本太郎は「内輪で何度か集ってから、公開討論会をひらこうということになった。東中野のモナミの主人とは心安かったので、特別な条件で場所を借り、月に二回ずつ、順番に誰かがレクチュアーし、あとフリーディスカッションするという形で、定期的に、かなり続けた(「清輝と私」)」と真面目ぶるが実はそこで、彼に憧れて出入りしていた平野敏子(後の岡本敏子)を見初める。東中野のフレンチレストラン「モナミ」(岡本の母かの子が命名)は帝国ホテルと同じフランク・ロイド・ライトが設計したというだけあり、大正期の雰囲気の漂う風格のある建物だが、喫茶室(デート室)で出会い系も兼ねていた! 

公開討論会は「リアリズム序説」花田清輝、「社会主義リアリズムについて」関根弘、「フィクションについて」佐々木基一、「実験小説論」野間宏、「人間の条件について」椎名麟三、「反時代的精神」埴谷雄高、「創造のモメント」安部公房、「対極主義」岡本太郎などが『新しい芸術の探求』(月曜書房)で活字化されている。今となっては戦後派特有の観念的なテーマはリアリティーがないけれど、その熱さだけは残っている。しかし大きくなりすぎたグループは自然と拡散し、生粋のオーガナイザー花田清輝は以後「現在の会」「記録芸術の会」「現代批評の会」と次々と看板を架け替え続けた。

《夜》をイメージしてボディはブラック、背面にシルバーで岡本太郎フリークのライターZEST氏による「夜の会」会員名簿タグ。



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