アナール学派

FILM JLG SOCIALISME

http://www.youtube.com/watch?v=FN27Hhfkf6k

既に観たHarpoBuchoにはきわめて評判のよろしくない『ゴダール・ソシアリズム』を今日観てきた。

いや、傑作でしょこれは。

スペクタクルとして消費すること、3Dやハイビジョンのありふれた目と耳の快楽、小児的全能感なご都合主義的つじつま合わせに浴することを、そのような安い快楽が映画だという固定観念がある。
が、スペクタクルな『映画に反して』そこから身を剥がし、立ち上がる映画の享楽に心を向かわせれば、少なくとも『映画史』や『アワーミュージック』以上に、この『フィルム JLGの社会主義』は、相当に映画を観ながら考えることの楽しみを与えてくれる。廣瀬純が以前「そのくらいのこと(パウロ・ヴィルノやドゥルーズシネマの思考圏、イマージュの搾取というシネキャピタル問題)を考えていない映画監督には興味も湧かないし、観る必要もない」と語っていたが、まさにその通りで、観るべき数少ない映画作家であり続けている。映画は快楽ではなく享楽であるべきだ、モノを考えよう。



JLG_S3

第一楽章〈こんな事ども〉、第二楽章〈どこへ行く、ヨーロッパ〉、第三楽章〈われら人類〉だが、それだけがメッセージだと割り切ってもいいだろう。地中海をクルーズする豪華客船で、暇を持て余し船内のディスコや晩餐やプールやエクササイズやスロットゲームや読書やミサや日光浴をする有閑階級。働くのは皆、有色人種。配役らしき配役もなく、謎掛けのような客船ドラマに回収すべき伏線もなし。ただ青い海に対して金と黄金と金貨がよく目立った、地中海の強い日差しで。
寄港地はエジプト/パレスチナ/オデッサ/ヘラス(ギリシャ)/ナポリ/バルセロナ、それぞれの歴史的記憶がカットアップされる。ヨーロッパとエジプト、フランスとアルジェリア、パレスチナの『ヒア&ゼア』とナチズム、ファシズムとナポリの連合軍上陸、ギリシャ悲劇と民主主義、オデッサのポチョムキン階段、バルセロナではスペイン内戦で消えた黄金をめぐる船上ドラマも絡む。国際旅団、人民戦線、コミンテルンとCNT、不可解な台詞や挿入される映像からたくさんの歴史的な連想が続く。

これは劇中も引用されたブローデルの『地中海』の抽象的な映画化といってもいい。スーダンの金とイスラムとキリスト教圏の歴史を地中海世界から透過した、アナール学派の研究とインターナショナル(国際共産主義運動)の動きと流れ、それを端的に〈われら人類〉と重ねられる。金持ちの遊ぶ(こんな事ども)豪華客船(ヨーロッパ)が地中海(われら人類)を回る。


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さて、社会主義ではなかったら、小さな船であるこの地球で、我々はいかにクルーズしてゆくのか。ゴダールはインタビューでこう答える、パンフレットから引用しよう。
「―やはり政治が問題?
そう。近代民主主義は、政治を、切り離された思考の領域に押しやることで、全体主義に向かった。
―”X+3=1”とは?
アインシュタインの公式というよりも、モンタージュ思考の頂点と基点にある隠喩だ。たとえば、財政に関するモンタージュで、今のギリシャの借金とドイツ人旅行者は関連づけられるし、”財政が大事にされるときは、国家はもう見込みがない”というモンテスキューの言葉に耳を傾けることができる。」



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いささか歴史/政治的にゴダールを読みながら観る性で、このエキサイティングな思考の悦びを、多くの人と共有できていないとは思いつつ、最後のFILM JLG SOCIALISMEの前に、赤い字でCOMMU…とタイプされていたことは(パンフレットにあるシナリオ採録にも乗せられていなかったが)ここで強く明記しておこう。

追記、COMMU…ではなく、タイプされていたのは白い文字で DES CHOSESのあと COMME…でした。願望を読み込み過ぎでしたね。



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